昨日、山本健二君の最新CDに触れ、森繁久弥氏の素晴らしい詩を紹介したが、今日は森繁氏と早大グリーの関係に触れる。同氏はこよなく早稲田グリーを愛しておられた。初めてレコードで聴いた時、“今日だけは本当に先輩になりたい気持だ”と述懐し、素晴らしいアドバイスも贈ってくださった。早大グリークラブ100年史から二つのメッセージを転載する。いずれも手書きの心がこもった原稿だった。 96歳死去は文字通り天寿を全うされたことになるが、葬儀の日は私も後輩の一人として心からご冥福をお祈りした。偉大な先輩だった。【Latvija編集長 徳田浩】 1、昭和35年6月 第1回早慶合同演奏会に寄せられメッセージ 心を高く悟りて俗に還れ(早稲田グリークラブによす) 森繁 久弥
「都の西北…」とドラ声で歌ったことしか思い出せぬ早稲田に、こんなすばらしい大合唱団があったとは、私も全くうかつ千番であった。玉川学園に行っているセガレに聞いたらうちの合唱団よりはるかに上手いと云う。 今、私はいただいた諸君のレコードをかけて聞きほれながら、びっくりを通りこして何んとなく誇らしげな気持になっている。今日だけはほんとに先輩になりたい気持だ。こんなにうまく歌えれば、学問などそう立派に出来なくてもいい。学び得た少しばかりの君の知識が世の中に出て役立つより、全体の中においた一人として香り高い心のゆらぎを感得して来た歌びととしてのスチューデントライフの方が、どんなに君のこれからを幸せにするだろう。悲しいドロンコのジグザグより、哀しい程の人の心の高さを知った君たちの歌声の方が、共に求めて生きてゆく糧となり力になるに違いない。 古い歌もうたってくれ、子供の歌もうたってくれ 忘れられた様な民族の流れも歌ってくれ、やがてその声は、あの蒼い空の中に飛んでいってあたたかい光や、雨や、雪となって舞い降りてくるのだ。 “心を高く悟りて俗に還れ! と云った芭蕉の言葉をあなたがたに贈りたい。 ※森繁氏49歳の時の瑞々しい文章。この時、慶應ワグネルにはフランキー堺氏がメッセージを寄せた。
2、昭和58年12月 男声合唱「屋根の上のヴァイオリン弾き」初演の時に寄せられたメッセージ 民々の喜びと深く哀しい民族の悲哀を忘れずに舞台へ(「屋根の上のヴァイオリン弾き」の合唱に寄せて) 森繁 久弥
早稲田大学グリークラブが、私どもの大作「屋根の上のヴァイオリン弾き」のナンバーを取り上げて大合唱にアレンジしてくださることは、何にもまして嬉しいことです。 どうか、このミュージカル・プレイに流れる、民々の喜びと深く哀しい民族の悲哀を忘れずに舞台に立って下さい。 思い起こせば、百年祭の記念公演も、当時の早稲田の事情から心にきざむものがありました。あたふたしたダイジェスト版でしたが、学生諸君のどよもすような客席の歓声に、背筋に水の奔るのを、私は勿論、全員身に感じての一夜でした。 今は「孤愁の岸」という大作に心身をかたむけていますので、参上できませんが、どうぞこれも又、何かの参考になることを信じています。 「屋根の上のヴァイオリン弾き」を演奏する早稲田大学グリークラブ 昭和58年12月3日 東京厚生年金会館大ホール 編曲・指揮 福永陽一郎
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