日本ラトビア音楽協会の皆様へ
「ラトビアは音楽の国、歴史に目を向け相互理解を深めつつ、コラボの新しい道を見出す喜びを表します」


ヴィタ カルンツィエマ
オルガン奏者
ラトビア音楽アカデミー講師
ラトビアオルガニスト協会会長

 ラトビアは音楽の国と呼ぶことができましょう。なにしろ13世紀以来、パイプオルガン音楽と声楽が共に親しまれ、一体となって演奏されているのですから。ラトビアの敬虔な宗教心はルーテル教とカソリック教に根ざしていますが、その結果、少数の正教の教会を除くほとんどの教会にパイプオルガンが普及しました。W. アマデウス・モーツァルトはパイプオルガンを“器楽の女王”と評しましたが、バルト海沿岸で最初のキリスト教会が建立されて以降、ラトビアの歴史上大きな存在となっています。オルガン製作が勢いを増したのはロマン主義の隆盛と時を合せており、19世紀から20世紀に変わる頃に伝承による製法は、かつてない高品質を生み出し多数が製造されました。不幸なことに、ソビエト支配のイデオロギーはいかなる信仰とも相容れないために、20世紀後半に造られたオルガンは僅か一つ(!)しかありません。
 今や首都リガはパイプオルガン音楽の中心地であり、中でも注目すべきはリガドーム(大司教のおられる大聖堂)にある「ヴァルカー」ブランドの四段の手鍵盤を持つパイプオルガンです(1883?84年製)。夏期にはそこで一週間に三つの演奏会が開かれることもあります。そのオルガンによって、ラトビアや海外から集まる国際レベルの多くの演奏家が技量を試されます。その歴史的な楽器は、今でも欧州最大級のオルガンであり、豊かな音と音響領域が持つ可能性が、真鉄に吸い寄せられる磁石のように真の音楽家を引き寄せています。このオルガンは、ロマン派オルガン製作の伝統にとって記念碑であり、製作当時そのままの型枠を残しており、すべての補修は19世紀の製作技法を取り入れて慎重に行われています。ラトビア音楽学校の卒業生達は、卒業試験でそのパイプオルガンを演奏できることを最高の栄誉と考えています。若き演奏家達は習熟の技をしっかりと披露せねばならず、ラトビア最高のパイプオルガンでの最終試験を終えた後は、欧州や世界各地でコンクールや祭典に於いて、多くの成功を収め経歴を積み重ねます。
 ソビエト連邦崩壊後に演奏可能であったのは、もちろんリガドーム教会だけではありません。リエパヤには四段の手鍵盤オルガンが2台現存し、ヴァルミエラ、セシス、ウガーレ、リガの各教会にはオルガンが製造時のまま保存されています。ウガーレにある1701年製のものは価値ある一つです。ラトビアの誇る手造りの芸術品を残した匠の技の持ち主は次の方々です。H. A. コンティウス、C. ラネウス、T. ティーデマン、K. へルマン、K. A. ヘルマン、A. マーチン、E. マーチン、F. ヴァイセンボーン、J. F. シュルツ、F. ラデガスト、G. グルネベルグ、W. ザウアー、E. F. ヴァルカー、G. F. シュタインマイヤ、H. コルベ、M. クレズリンス、J. ジャウギエティス。今、ラトビア人のオルガン奏者の間には、現代の音楽ホールの一つに新しいパイプオルガンを設えて、高価ながらそれに見合う文化の伝統が継承されていくことを望む声があります。
設置が特に望まれるのは、人気の高い三大パイプオルガン音楽祭が開かれるリガドーム音楽祭(夏)、リエパヤ音楽祭(秋)、セシス若手オルガニスト音楽祭の会場であり、バルト諸国の才能と創造性に恵まれた多くの学生が集まる場になっています。現代の学生達が、一見時代遅れに見える私たちの芸術である楽器に対して多大な興味を示していることを知るにつけ、驚くと共にオルガンに携わる私たちにとって報われた気持ちになります。
 パイプオルガン演奏が私たちの文化遺産であることを広く認識し、それを発展させるためにラトビアオルガニスト協会がコンサートオルガニスト、教会オルガニスト、オルガン製作者、オルガン賛美者により設立されています。協会は定期的に熟達者の授業、講義、演奏会を開き、楽譜や情報誌「Vox Humana」を出版しています。
パイプオルガンはラトビアの教会で何世紀にも亘り絶えることなく音を響かせてきました。ところが、ラトビア人によるオルガン音楽作曲の歴史は僅か一世紀しかありません。作曲の蓄積は当初は低調でしたが、あの20世紀後半に「楽器の女王」に対し作曲家達は、とても強い興味を抱くようになりました。近年になり、国の独立によって国際協力の弾みが付いてきました。ラトビアの音楽遺産を、世界文化の多様化に関心を持つ人々と分かち合う機会を、できるだけ捉えたいと私たちは努めています。
 日本ラトビア音楽協会にご挨拶をさせていただく当たり、歴史に目を向け音楽に対する理解を相互に深めつつ、コラボレーションの新しい道を見出せる喜びを心から表したいと存じます。
(英訳:トムス オストロフスキー、 和訳:中嶋勝彦=東京稲門グリークラブ)






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keisuke Suzuki(C) 2005