【6月25日】2018年ラトヴィアの動向―前半期
作者 webmaster   
2018/06/25 月曜日 19:31:58 JST

 

 

                       2018年ラトヴィアの動向―前半期


 

                                                                                                     2018年7月2日

                                                  ラトヴィア投資開発公社    日本コーディネーター  長塚徹

 

ラトヴィアの政治、経済情勢の詳細および要人往来については下記

在ラトヴィア日本大使館のホームページ「月報」をご覧ください

http://www.lv.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html

 

 

1.政治情勢

来る10月6日に4年ごとに実施される定例選挙(4年毎、第13回)が行われる。さる6月9日に選挙戦が開始された。昨今、公的医療関係者の給与改定、医療制度改革、教育制度改革など、国政の根幹に係る重大問題が世情を騒がせて来たが、「緑と農民連合」クチンスキス氏を首班とする三党連立政権はその後も大過なく、国政を運営して来た。この間、近年国政の中心勢力をなして来た「統一」の退潮に歯止めが掛かっていない。同党は首脳陣が交代し、党名を「新統一」に改名するなど、党勢回復に努めている。以前は同党が中道勢力を代表していたが、同党の退潮に伴い、真の保守勢力を標榜する「新保守党」、リベラル派を標榜する「ラトヴィア発展・パー」がこの隙間を埋める形で結党された。この間、現在欧州議会議員の要職にあり、外務大臣等を歴任し、首相、大統領候補の新聞辞令を受けたことのある「統一」の要人A. Pabriks氏は「ラトヴィア発展・パー」党に鞍替えした。選挙を控え、各党間の駆け引き、党員の鞍替えが進んでいる。「統一」は5パーセントの障害を乗り越え、議会に代表されると見られているが、現役の大臣を含め、多数が落選する見通しであり、上記2新党が議会に選出されるか、否か、下記「調和」党の去就を含め、各党間の勢力関係がどうなるのか、これらの関係がラトヴィアの将来を決定して行くことになる。

ロシア系住民はラトヴィア人口の約3割を占めているが、近年は「調和」党(ラトヴィア系、ロシア系住民は調和すべきとの主張を党名にしている)がこれら住民を代表して来た。議会においても一貫して3割前後の勢力を維持し、最大党である。ラトヴィア人はソ連による占領、併合、その圧政下に苦難の道をたどったこともあり、独立後一貫して国政からロシア系勢力を排除して来た。他方、婚姻の3、4組に一組は両系間に行われている、ロシア系のウシャコフ氏がリーガ市長の職にあるなど、両系間の交流、融合も進んで来ている。同党を閣内に入れるか、否かと言う命題が国政の根幹をなして来たが、「調和」党は今回以前経済大臣等を歴任したV. Dombrovskisを首相候補に、バプティスト教会S. Sprogis司教を明2019年に行われる大統領選挙候補に指名した。同司教はラトヴィア系、ロシア系間の垣根を除去するために働きたいと述べている。「統一」議員で運輸省の事務次官、大臣を歴任したA. Matiss氏も同党より立候補する。国政選挙はリーガを始め全国5選挙区において比例代表制で争われるが、上記3名の有力者を含め、看板になる全5区の筆頭候補者はすべてラトヴィア系人とする模様。同党は従来から社会民主主義を標榜して来たが特に最近この点を強調している。相当数のラトヴィア系人が同党に投票しているものと推定されているが、同党は今次総選挙においてロシア系の枠を超えた党勢の拡張を図っている。

 

2.経済情勢と今後の見通し

ラトヴィア経済はその後も順調に推移している。2017年の実質経済成長率は4.5%であった。2018年第一期実績は4.3%、年間では4.0%、2019年は3.4%の見通しである。強力な輸出および国内投資、特にEU構造改革資金の流入にともなう旺盛な土木・建設需要が主たる牽引役であった。他方、2017年においては金融・不動産投資部門はマイナス4%を記録した。経済が好調なため2018年2月に発生した下記6ABLV銀行の破産は国家経済的には大きな悪影響を与えていないものと思われる。詳細は下記財務省ホームページによられたい。

http://www.fm.gov.lv/en/s/macroeconomics/monthly_survey_of_the_economics_and_general_government_budget_/

 

3.リーガの桜

毎年4月末、5月初めになるとリーガの勝利公園uzvaras parksで日本の桜を愛でることができる。桜は2012年ラトヴィア初代常駐の長内大使の計らいにより日本から寄贈された。当初は114本あった由。一部は枯れて撤去されたが、大半は生き残り、公園内の小川、池沿いに綺麗に花を咲かせている。「日本の桜」として良く知られており、咲き始めるとインターネット上に掲載される。植樹直後は背も低く、見栄えがしなかったが、近年は枝ぶりもしっかりし、桜並木らしくなって来た。

http://www.la.lv/riga-krasni-zied-japanas-kirsi-sakura/

 

4.建国100周年記念事業

ラトヴィアは1918年11月18日ロシア革命時に分離独立した。ラトヴィア内外で多数の記念祝賀行事が企画、実施されているところ、右抜粋次のとおり。

4月23日、ノルウェーの皇太子Haakon及び同妃Mette-Marit妃が、同27日スウェーデンの皇太子Victoriaと同夫Daniel殿下が、また、6月11日にはウィレム・アレクサンダーオランダ国王が同18日にはアイルランドのHiggins大統領と同夫人がラトヴィアを訪問した。

世界各地で祝賀行事が実施されているが、2月14日には東京サントリーホールでラトヴィアの楽団Kremerta Balticaの演奏会があり、徳仁親王、雅子妃が参加した。5月22日にはロシア、サンクトペテルブルクでロシアに残留したラトヴィア系人による記念祝賀会が行われ、また、8月11日にはロシアAugsburgで実施する予定。11月11日―18日の期間にブラジルで祝賀行事を行う。

新百科事典の編纂が進行中である。一部完成した部分からデータベース上に作成し、公開し始めている。

ラトヴィア各地の固有名詞、すなわち、山、川、岡、居住地など通常地図などに出て来ない余り知られることのない地方の地名あるいは昔あった地名などをデータベース化する事業が進んでいる。

 

5.ラトヴィア・ロシア歴史学者委員会の機能停止

同委員会は、2010年にザトレル大統領(当時)がモスクワを訪問し、メドヴェージェフ大統領(当時)と会談した際に合意、設立された。「学術的な形で20世紀におけるソ連とラトヴィア関係を議論し、さらに、1918年―1939年間のラトヴィアとソ連間の経済・政治関係資料を整備する」ことを目的としている。けれども、2014年夏にロシアのウクライナ侵攻が始まった結果、ラトヴィア側委員は徐々に退会し、ラトヴィア側委員会は同委員会の活動停止を決議し、両国間委員会の活動が停止した。

ラトヴィア側においては内閣府が事務局になっていたが、2018年2月にラトヴィア学術審議会に移管された。同審議会O. Sparitis委員長は当初大変意欲的であり、4月にモスクワを訪問し、ロシア側関係者と協議し、審議会の活性化に努力した経緯もある。

しかし、その後、新委員会の組織化に協力したラトヴィア歴史学会事務局長が同学会およびラトヴィア大学歴史哲学学部等の歴史学者間にアンケートを行い、これら専門家の意見を聴取したところ、肯定的な回答はなかった。同事務局長は「同委員会の活動は学術だけではなく、倫理に関連する問題でもある」等述べている。学者間では、ロシアの歴史学者と交流する用意はあり、学会等に参加し、ロシアの学者と個人的に接触、交流することは排除しないが、国家間の委員会はまた別である、これを再開するとロシア現政権の宣伝に寄与することになるし、現政権の下ではロシア保安委員会(KGB)の記録を参照できる可能性はなく、再開しても成果が上がらないなど、ロシアとの国際関係が正常化するまでは本委員会の機能は停止せざるを得ないとしている。

 

6.運命の庭園

ラトヴィアを貫流するダウガヴァ河中流の景観地kokneseに運命の庭園が建設中である。2005年にkoknese基金が設立され、同基金が中心となり、国民の寄金を中心に施設を建設、整備して来た。ほぼ完成域に近づいており、創設以来の構想にしたがい、本2018年ラトヴィア100周年祭にともない国に寄贈される。ただし、建設、運営は今後とも基金が実施する。寄付は国内だけでなく、国際的にも受け付けている。

当初は、シベリヤ抑留者等全体主義の犠牲になったラトヴィア人を弔い、記念する施設として構想されたが、下記同基金の公式ホームページには「ラトヴィアの成長と発展を象徴」する施設と謡われている。

同園の建設に当たっては国際的コンペが行われ、日本人禅僧・庭園設計家枡野俊明氏の作品が採用された。同園が建つ川中島はkrievukalna salaと称する。これはロシア人の山の島と言う意味である。また、19世紀中頃には同島にロシア正教の教会が建っていたと言う記録もある。シベリア抑留と言う悲劇的な関連に留まらず、ラトヴィアとロシアの長い関係に想いを致すことができる。

同園の中心的施設「円形劇場」に至る通りは並木になっているが、そこには歴代の大統領を始め国内、国外著名人が植樹を行った。同園内の森には「広島平和の石」も置かれている。

http://liktendarzs.lv/us/the-garden-of-destiny-3

 

7.ABLV銀行の破産

(1)2月13日アメリカ財務省金融犯罪捜査網(FinCEN)はホームページ上にラトヴィア第三位のABLV銀行を31USC5318A(b)(5)の対象とする、すなわち、米国におけるドル取引を禁止するとの発表(RIN 1506-AB39)を行った。これにともない、数日中に巨額の預金が同行より引き出された。同行は多額の資金をドルで運用し、これが当面引き出せなくなったこともあり、顧客の引き出しに応ずることが出来ず、ラトヴィア中央銀行に対し支援を要請した。ABLV銀行は多額の優良債権を所持していたので、中央銀行はこれを担保に同行に対し多額の融資を行ったが、23日同行を監督する立場にある欧州中央銀行(ECB)は同行には引き出しに応ずる能力がない、ラトヴィア法令にしたがい解散させると発表した。ここに同行の命運は尽きた。

(2)上記FinCEN 発表は同行が組織的、積極的に資金洗浄に加担し、北朝鮮に対する制裁に違反し、ロシア、ウクライナにおける汚職を助長した、また、関係当局の捜査を逃れるため贈賄を行った等非難している。同行はこれら非難を全面的に否定した。ラトヴィア関係当局、メディアもこれらを肯定する報道を行っていない。ただし、同行発表のとおり、同行が直接関与している取引は別として、銀行には個々の顧客の事業活動まで調査する能力はないとしているとおり、資金洗浄の事実関係については判定不能である。なお、FinCEN発表には上記一連の非難のほか、同行をラトヴィア第二の銀行とするなど事実認識に信憑性が感じられない。

(3)ラトヴィアの銀行に非居住者の預金が多かったと言うのは事実である。ラトヴィア資本・市場監察局の発表によれは2017年第1四半期には預金の27.8%が非居住者の預金であった。非居住預金者の太宗はロシア、CIS諸国からであることが知られており、資金洗浄への関与が従来から問題視されていた。ラトヴィア政府は上記事態を受けて非居住者預金を直ちに大きく削減する必要がある旨発表し、4月26日に議会が関連法規の改正を議決し、ペーパーカンパニーとの銀行取引を禁止した。具体的には事業活動の内容、所在地、財務諸表を提示できない会社を対象としている。ラトヴィア資本・市場監察局が施行規則を決定する。FinCEN発表後3月上旬までに市中銀行の預金総額は10%、約20億ユーロ減少した由であり、上記政府措置を待つことなく、各銀行から非居住者預金が急速に引き上げられたことが明らかである。

(4)欧州中央銀行による破産宣告後の2月26日ABLV銀行は「銀行には十分な資産がある、顧客、預金者の権利と利益を擁護するために自己清算する」旨発表した。資本・金融監察局は当初「同行に負債を払い戻す資金力があるか早急に確認する」旨発表したが、発表は遅延を重ね、やっと6月12日になりこれを許可する旨発表した。発表に当たり監察局長は「監察局員4名を派遣し、自己清算の詳細を監視する、組織的、意図的な資金洗浄を指摘したFinCEN発表の真偽を確認することも監察の重要な目的である、また、違反行為が確認できた場合にはその責任者を特定する」等述べた。顧客への払い戻しに当たっては資金洗浄調査のノウハウを持つ国際的監査法人Ernst&Young社も参加し、時間を掛けて詳細に行う由。上記(2)FinCEN発表は一般的な非難に留まり、違反行為の詳細については一切言及していない。2度にわたりラトヴィアを訪問し、ラトヴィア政府と協議したFinCEN高官からも新事実についての説明はなかった模様。また、同高官はラトヴィア訪問時車両から降り政府建物に入る際にマスコミ陣に囲まれたが、適宜はぐらかし、結局記者の質問に応じなかった。なお、オゾラ財務大臣は上記監察局職員の派遣費用は政府予算より賄う旨発表している。FinCENは同行破産手続きは監察局監視の下に行うべき旨依頼したとの報道もあった。監察局の許可付与に3か月半と言う異常な長期間を要した。ラトヴィア政府としては自己清算を許可する一方FinCENの主張に沿う形で違反行為の事実関係を調査、解明し、ラトヴィア金融界ひいてはラトヴィア国家に対する国際的信頼を回復させる体制を整えたものと理解される。すなわち、同局長は具体的な清算作業計画を9月までに策定し、その後2、3年掛けて預金を払い戻す、そのあとに資産を売却し、最終的に優良資産、不良資産を分離し、新銀行を設立することになろう等述べた。

 

8.ロシア人の資産保全

不凍港を有するラトヴィアは地理的、伝統的にロシア、CIS諸国の外界への出口であり、三国間輸送が多く、SEVERSTALLUKOIL等ロシア系企業の投資も多い。外国資本投資額累計の1割強をロシア資本が占めている。リーガ近郊の海浜保養地ユールマラは近世ロシア人の保養地として発展して来た。同地には多くの別荘があり、また、リーガ市北部の高級住宅地メジャパルクス(森林公園)には多数の豪邸が構えているが、その多数はロシア人の所有になることが知られている。世界金融不況後ラトヴィア政府は2010年より独特の滞在許可制度を導入し、一定額(当初は5万ラッツ、一千万円弱)以上の資産を購入した者に5年間有効の滞在許可を与えた。数年の中に1万人弱が滞在許可を所得したが、その大半はロシア人であった。

近年原油価格の下落、西側による制裁措置、これに伴うルーブル貨の下落がロシア経済に甚大な影響を与えたが、上記一連の在外ロシア資産はこの影響を受けなかった。ロンドン、スペイン等、外国に動産、不動産を所有するロシア人は多い。制裁開始前に購入されたこれらの資産は保全されている。

しかし、考えて見れば、これはロシア人に限らない。昨今アメリカを始め、各国の多国籍企業、日本の有力企業等、多くの企業、個人が国外に多額の動産、不動産を所有している。これら資産も本国経済から独立した立場にある。

 

9.基軸通貨ドル

上記ABLV銀行破産は基軸通貨ドルの威力を如実に示すものであったが、FinCENの措置は事実認識に大きな問題があり、公正さを欠いた一方的なものであった。ラトヴィア政府は自国金融業を保全する立場から、直ちに米国財務省の意向に沿った措置を取るともに、同行の破産はラトヴィアの金融制度、経済にシステミックな影響を及ぼさないとの発言を繰り返した。けれども、公的にはほとんど報道されなかったが、政府が実施した世論調査においても雇用、納税、資本投資、文化事業の停滞等大きな被害が出るとの回答が多数であり、FinCEN措置の正当性に対する疑義とともに破産の被害が強く意識されている。昨今イラン核開発問題をめぐる米国の一方的措置、これにともなう欧州、日本等各国企業に対する制裁による被害さらには米国の関税賦課にともなう世界経済の混乱が大きな問題になっているが、基軸通貨ドルの重要性、米国の一方的措置が及ぼす危害についてはThe Economist5月19-25日号巻頭記事The dollar About that big stick (写しをこのEメールに添付しました)、同Business-What the OFAC (https://www.economist.com/business/2018/05/19/for-european-firms-resisting-american-sanctions-may-be-futile)及び同Free exchange-The long arm of the dollar (https://www.economist.com/business/2018/05/19/for-european-firms-resisting-merican-sanctions-may-be-futile)を乞う参照。

 

10.       ロシア人亡命者

数は多くないが、近年ロシア反体制派知識人がラトヴィアに亡命を求める例が散見される。ロシア国内における迫害から逃れることが最大の要因であるが、ここにもラトヴィアとロシアとの密接な関係を見ることができる。ラトヴィア住民の約3割はロシア語系であり、リーガ等幾つかの都市では住民の半数以上がロシア系人である。テレビ、ラジオ、出版物を含めロシア語情報環境が維持されている。ロシアからのテレビ、放送も入ってくる。ITの現代ロシア内関係者との交信も可能かと想像される。これら亡命者はロシア官憲からは逃れるが、ロシア、ロシア語の情報環境に留まり、生活している。

上記の諸情報に関するご質問は長塚に、ラトヴィアへの投資、貿易関連のご質問、ご依頼はアリナ嬢にお願い致します。アリナ嬢は日本語が堪能です。

(1)郵便番号150-0047

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駐日ラトビア共和国大使館

ラトヴィア投資開発公社日本代表

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最終更新日 ( 2018/07/01 日曜日 10:25:28 JST )