【8月10日】「未来への伝言」平和の旋律ピアノで、三味線で
作者 webmaster   
2009/08/10 月曜日 19:09:42 JST

平和の大切さ・尊さ・喜びを世界に発信したコンサート  

 89日に東京で、素晴らしい催し(コンサート)があった(青山・東京ウィメンズプラザホール)。出演したのは、飯島晶子(朗読)、谷川賢作(ピアニスト)、おおかた静流(ヴォーカル)、クラーク記念国際高校パフォーマンスコースの生徒100名(コーラス)、それに長唄三味線の人間国宝・杵屋巳太郎が加わるという多彩な顔ぶれ。しかし、この日の主役は、64年前に広島に投下された原爆の爆心地から1、8キロの地点で被爆した1台のピアノ。そして、このピアノを含む、この日の出演者全員の思いは平和への深い祈りだった。

  被爆ピアノを調律する矢川光則氏

 谷川ピアノと巳太郎三味線の壮絶バトル

主催者の飯島は、見事に甦ったこのピアノで、平和を願う「未来への伝言(メーッセージ)」を世界中に伝えたいと考えた。キャッチコピーは「原爆を受けながらも強く生きるピアノがいる! 邦楽の世界から平和を願う鳥が放たれた。いつの時代にも、ささやかながらも烈しい詩・音楽があった。思いはひとつ。時代を超え、ジャンルを超えて。奇跡が、今、交錯する…」。

  ある日飯島は、巳太郎から贈られた古いカセットテープに深い感銘を受けた。それは、原爆の悲惨さを訴え、平和を願い生きる喜びを語った谷川俊太郎の詩「5つのエピグロム」に作曲した巳太郎の作品。40年前の作品ながら、瑞々しい新鮮さに溢れるこの作品を、被爆ピアノ、三味線、ヴォーカル、コーラスで甦らせることは出来ないだろうか…。飯島の懇請を巳太郎は一も二もなく快諾した。「私も出演して三味線を弾く」と。巳太郎自身が空襲を体験し、戦争の悲惨さ・平和の尊さを誰よりも実感していたし、長唄の代表作の中にも、戦争の無意味さをテーマにした名作がある。

 編曲は谷川が担当した。奇しくも俊太郎の子息である。演奏したのは「原爆を裁く」と「5月のひとごみ(5つのエピグロムの一曲)」。冒頭、奔放な谷川のピアノと天才巳太郎の三味線の壮絶なバトルは何とも聴き応えがあった。全身に鳥肌がたち、握り締めた手に汗した。二人は演奏で、原爆を強烈に裁いた。「賢作さんのピアノは良く知っているから、あの位強烈に攻めてくると予想していた。全霊をこめて応えた」と巳太郎。

 5月のひとごみ」は静流のヴォーカルと、高校生20名が見事なパフォーマンス(語り)と合唱で、この作品を鮮やかに甦らせた。そして平和の尊さを、次を担う若者たちにしっかり伝えられたことを会場にいた全員が実感した。「父俊太郎と巳太郎先生の鋭くシニカルな時代を切り取った作品が、今を生きる高校生たちのエネルギーに満ち溢れた力を借りて、40年ぶりに甦る、そのことに立ち会える感動…。巳太郎先生との出会いと飯島さんに感謝したい」(谷川)

 このピアノを甦らせた調律師・矢川光則は、「このピアノで北海道から沖縄まで各地で平和コンサートを続けている。世界共通言語の音楽を通じて、さまざまな人に平和について考えてもらいたい。それが、この被爆ピアノと私の願い。来年は、多くの方々の協力を得てニューヨークでもコンサートを開く」と話した。「このピアノは製造番号で昭和7年生まれであることを確認した。当時の所持者ご本人に確認したが、“少女だった頃、父が当時600円で買ってくれたもの”だという。当時は大きな家を1件買えた金額、鍵盤は総象牙の素晴らしいピアノです」とこのピアノの履歴も披露した。この日初めて弾いた谷川は「野球に例えれば天然芝生の完璧なグラウンドでプレイできた満足感を味わった。石ころの一つ位は予想していたが」と見事な調整に感嘆した。

 谷川のソロ演奏(ほほえみ、As You Wish)はもちろん、進行役の飯島が感動的に「ミサコの被爆ピアノ」(文・松谷みよ子)を朗読する時も、静流が感性豊かに歌う時も(なずな、会えなくなったあなたへ、天空の歌)、100人の高校生がエネルギッシュに明るい表情で合唱する時も(ずっと忘れない ずっと頑張るよ)、このピアノは豊かに鳴り続けた。世代を超えた出演者たちの表情に共通していたのは平和の素晴らしさだった。休憩時間に、聴衆は自由にピアノに触れ、静かに鍵盤を叩いた。最後に巳太郎が「幕三重」を独奏するビッグなおまけもついた。この夏いちばんの感動をもらった気がした。(徳)

文中の写真(上)「5月のひとごみ」演奏、(下)未来への伝言を語り合う左から谷川賢作、杵屋巳太郎、飯島晶子の各氏

 

 

 

 

クラーク記念国際高校パフォーマンスコースの生徒100名が見事な合唱を会場いっぱいに響かせた

  

 

  

最後にビッグなプレゼント、巳太郎氏の幕三重 

 

 

(追)

 このコンサートは早々とチケットが完売になり、当日は補助席も満席でした。買えなかった方も随分おられたようです。そんな訳で皆さまにご案内できなかったことが残念でお詫びします。巳太郎氏は私の長唄師匠ですが、先生の「五つのエピグラム」は、1989年に私が混声合唱に編曲して指揮し、巳太郎氏の三味線で演奏したことがあります。日ラ音楽協会合唱団「ガイスマ」のメンバーにも、あの時歌ってくださった方が数名おられます。今回は谷川氏の優れた編曲で、感性と若さがほとばしる高校生が充分に練習を重ねて歌ってくれましたが、私個人にとっても感慨深いものがありました。彼らが練習時に巳太郎氏の三味線にすごく興味を持ったことも大きな喜びでした。

 

 新聞・テレビはタレントの覚せい剤などバカバカしいことで大騒ぎ、天候まで超不順です。自民や民主のマニフェストは当面のばらまきばかりで、核兵器廃絶や平和への確かなメッセージは皆無…、情けない限りです。唯一の被爆国日本の為政者は、オバマ大統領よりもっと強いメッセージを表明できる筈だし、積極的に行動できる筈です。唯一、田上富久長崎市長の平和宣言は感動的でした。核保有国首脳一人ひとりを名指しして「核兵器のない世界への道を共に歩もう」と強く訴えました。

 日本人一人ひとりも、核兵器廃絶に関してもっと強い意志を表明すべきだと思うし、世界の人々とも平和について語り合いたいですね。私たち音楽愛好家は、言葉が通じなくても音楽で話し合えます。

それにしても、音楽で独立をかちとったラトビア民衆の強い意志、行動力の凄さをいまさらのように感じます。奇しくも長崎被爆64年目の89日に素晴らしいコンサートを聴き、感動したあとにいろいろなことを考えた一日でした。【Latvija編集長 徳田浩】

     
最終更新日 ( 2009/08/11 火曜日 00:38:46 JST )