【7月6日】映画評:シネマ「バトル・オブ・リガ」
作者 webmaster   
2009/07/06 月曜日 12:08:11 JST

 

 ラトビア映画「バトル・オブ・リガ」をご覧になった会員の方から感想が寄せられました。ご本人のご希望で署名をイニシアルにしました。【Latvija編集室】 

 

  東京国立近代美術館フィルム・センターで開催されたEU主催フィルム・フェステイバルで、その一環として66日と19日に「バトル・オブ・リガ」が上映された。会場には日本ラトビア音楽協会会員の方々の姿も多数見られ大盛況であった。

  この映画は1918年に独立を宣言したばかりの脆弱なラトビア民族政権が、1919年10月、圧倒的な兵力でリガを攻撃してきた帝国ロシアとドイツの残留部隊からリガを防衛した歴史である。当時バルト地域には、第一次大戦後の極めて流動的な時代状況が残っており、独立を求めるラトビア民族政権のほか、ドイツ帝国とロシア帝国の残党、ボリシェビキ政権、バルトを故地とするバルト・ドイツ人の勢力が三つ巴四つ巴となって混戦を繰り返していた。

  映画は、ラトビア建国史の一コマであるリガ防衛を、ラトビア・ライフル連隊の帰還兵マーティンシュと婚約者エルザの愛の行方を前面に出しつつ、ラトビア人の民族としての自由と独立を求める不屈の時代精神を壮大な叙事詩として描いている。ラトビアでは50万人の観客がみたという。   映像が素晴らしくその美しさに圧倒される。ダウガワ河の対岸から見たリガ市の姿は神秘的な美しさを放つ。最新のCG技術を駆使しダウガワ河を巡る攻防のスペタクルは迫力がある。ラトビアではオペラや演劇が盛んであったためか独自の視覚美学をそなえており驚くほど洗練されている。達者な俳優陣、的確な演劇作法もオペラで培われた伝統だろう。名作「戦艦ポチョムキン」を作ったエイゼンシュタインを生んだラトビアのことである。どこか映画をつくるDNAがあるのかもしれない。歴史的名画といってよい。 

  見所として強く印象に残るのが主役マーティンシュだ。マーティンシュが断然いい。ラトビア・ライフル連隊はラトビア随一のエリート部隊でレーニンの身辺警護でも名声をはせた。マーティンシュはそのライフル連隊の復員兵として帰国したが、進軍してくる侵略軍に対抗して祖国を守るため義勇兵を指揮し神出鬼没の活躍をする。その顔はつねに深い悲しみをたたえている。それは非情な大国の横暴に翻弄されつづける小国の運命の悲哀を象徴しているかのようだ。この悲しみと無常観こそ隠された真のテーマではなかろうか。

 このマーティンシュを演じたヤーニス・レイニスはラトビア演劇界を代表する俳優の一人である。マーティンシュは実在の人物か。歴史映画には虚実がある。実はマーティンシュはこの映画が作り上げた映像上の人物である。実際の英雄は卓越した指導力を発揮したウルマニス首相(その後大統領)とそれを支えた勇敢なラトビア人市民であろう。マーティンシュはこのような勇敢なラトビアの人々の理想を人格化したものといえよう。またマーテインシュはラトビアの伝説上の救国の英雄ラーシプレーシイスと重なって見える。その後もラトビアは1941年、1991年に、それぞれソ連の侵攻を受け熾烈な市街戦を戦った。この映画はそのような歴史に対する強烈な既視感覚に襲われる。かつてライシャワー教授は「ヨーロッパ社会とは本質的に戦国時代のままだ」と喝破したことがある。ラトビアを通じてヨーロッパの地平線が見える意義は大きい。(ST)

(注:「バトル・オブ・リガ」は、2009年アカデミー外国語映画賞受賞作品。DVDで発売され(5000円)、レンタル店でもご覧になれす。) 

         

最終更新日 ( 2009/07/06 月曜日 12:29:23 JST )