「身近で見たマエストロ トスカニーニ」 石坂廬(いおり)会員がこの程、「身近で見たマエストロ トスカニーニ」を翻訳、アルファベータブックス社から刊行されました。信濃毎日新聞や音楽の友2月号などに書評が掲載されるなど、注目を集めています。 著者のサミュエル・チョツィノフ(1964年没)はNBC交響楽団の創設者で、いち早くトスカニーニを指揮者として招聘し、長年トスカニーニの右腕として行動を共にした人物。伝説の指揮者トスカニーニの素顔が克明に描かれています。伝記といういわゆる堅苦しい読み物ではなく、数々のエピソードが次々出てきて、”とても面白いな!というのが編集子の第一印象。240ページの大冊を一気に最後まで読ませる魅力に溢れています。
訳者の石坂氏は「教養主義が久しく失われてしまい出版不況真っ只中の日本では、特に音楽出版社は瀕死の状況にあります。クラシック音楽の復興を願って一般の音楽愛好家向けに楽しんで頂けるよう願って翻訳に取り掛かりました」と話していますが、非常に読みやすい文体で訳されています。 トスカニーニの伝記はこれまで少なくとも2冊刊行されていますが、生誕150年の節目とはいえ「何故いまトスカニーニなのか?」という問いかけに、この本は明確に応えています。 編集子自身の音楽体験は、少年時に父は集めていたSPレコードで聴いたトスカニーニとフルトベングラーが始まりでした。高校の音楽部時代もトスカニーニ派とフルトベングラー派に分かれて青臭い音楽談義をしたものです。オケ全盛時代の今だからこそ、今では伝説になったトスカニーニの、あまりにも個性豊な実像を改めて見直す必要があると思います。ぜひ若い音楽ファンにも一読して欲しい本だと感じました。 それにしても石坂という編集子の愛すべき早稲田グリー後輩を、改めて”凄い奴だな!”と痛感しました。早稲田グリーの歴史に残るリリックテノールの歌い手で、稲門グリークラブの海外演奏旅行に何度も一緒に出かけました。たしか、日本火災海上保険に長く勤務し、後年笹川平和財団にいた記憶がありますが、いつだったか「こんな本を出しました」と差し出したのが翻訳処女出版「悲しみと希望―ラビン首相の孫が語る祖父、国、平和」。今回の「トスカニーニ」も含めて、幅広く原書を読んでなければ出来ない仕事です。 参考までに12月24日付け信濃毎日新聞の書評を転載します。 「戦中戦後に活躍した伝説の大指揮者の素顔を、右腕として行動を共にした音楽監督が伝える、尊敬と愛情に満ちた実録。戦前に著者が初めて、巨匠のイタリアの自宅を訪れた時から、コンサート中に記憶障害で指揮を中断する晩年のエピソードが語られる。自由を愛しファッシズムと戦いながら、楽団を前にすると妥協を許さない独裁者となり、一方で私生活では悪ふざけが大好きだった巨匠の実像。音楽の神に魅入られた、振幅の激しい強烈な個性が浮き彫りにされる」。(アルファベータブックス、2160円) なお音楽の友2月号にも「その日常から活写されたトスカニーニの人間性」と題した書評が掲載されています。【編集室 徳田浩】
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